『人間はどこまで耐えられるのか』
著者:フランセス アッシュクロフト(矢羽野 薫:訳)
発行:河出書房新社
価格:2,200円+税
装幀:Rodeo
人間にとって極限の環境における生理学的な反応を解説しつつ、我々人間が生き延びることのできる限界を探った1冊。エベレストの頂上に登ったとき、深海まで潜ったとき、厳寒の地に赴いたとき、我々の身体はどうなるのだろうか。
こうした事の多くは、科学が発達する現代までは深い謎に包まれていた。たとえばかつて、高い山々を越えて勢いよく進軍すると、常に多くの兵士が原因不明の症状で命を落としていた。高高度が身体に与える影響など知られていなかった当時は、神聖な山々に足を踏み入れたために神々の怒りに触れたのだと言って人々の山岳信仰を助長したという。この本が面白かったのは、生理学的な解説だけにとどまらず、そうした「未生理学時代」のエピソードも散りばめられていることだ。
最近、ヨーロッパでは熱中症で数千人が命を落としているというニュースを目にする機会が多いが、本書には「とのくらいの暑さに耐えられるのか」という章もある(第三章)。ここでも、熱中症が発生するメカニズムを科学的に解説したうえで、アフリカの人の背が高くて手足が長いのは「身体の表面積を大きくして熱を効率的に放出するため」という“なるほど納得”のトピックも紹介してくれる。(P.157)。さらには、昔の人(といっても20世紀前半だが)が熱中症をどう捉えていたかなどが述べられていて興味深い。以下に引用する。
Quoted from 人間はどこまで耐えられるのか(第三章より)20世紀の前半には、日射病(現在の熱中症)は太陽による卒中の一種と考えられていた。太陽光線には危険な科学線が含まれていて、それが頭蓋骨に浸透して脳に達し、“太陽の一撃”を食らわすというのだ。太陽光線が体内に侵入するのを遅らせるとして、日よけのヘルメットと背骨に貼るパッドが流行した。防止の上に薄くて軽い金属の板を貼る人もいた。
熱中症が太陽の直接的な影響ではなく、身体の体温調節ができなくなることが原因だとわかるには、1917年まで待たなければならない。熱中症については、[熱中症のホームページ]に予防策なども含めてていねいな解説がある。

