| 荒蝦夷 | |
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またまた熊谷達也です。このところ、すっかり彼にハマっています。読んだことない人はもったいないですよ。前に読んだとってもおすすめの1冊「邂逅の森」で直木賞・山本周五郎賞をダブル受賞した熊谷の受賞第一作が、この「荒蝦夷(あらえみし)」です。
中央朝廷の支配が完全には及びきっていない8世紀の東北地方で、一族・部族を率いて生き残りを図る男たちの生き様を描く。この時代、この地域、について触れた書籍を読んだことはほとんどないので、完全に「素」の状態で(坂上田村麻呂など日本史に出てくる知識はあったが……)読み始めた。
本書では、蝦夷の首領である呰麻呂が、これまでにないヒーロー像として描かれる。呰麻呂はその粗暴な振る舞いなどのせいで、中央政府から派遣されている役人たちからは軽んじられているのだが、その実は非常に頭がよく繊細な機転の利く人物で、ことあるごとに中央政府に一泡吹かせる。政府寄りの土豪の中には、そんな呰麻呂の本性を見抜く男たちもいるが、呰麻呂を蔑視する政府のなかで彼らの意見は重用されることはない。呰麻呂を取り巻く土着勢力のミステリアスな人々も物語を効果的に盛り上げる。
当時の中央政府を今の時代で言えば、業界標準や規制概念といった言葉に置き換えられるだろう。小さいながらも知恵と力を駆使してその「大きなもの」挑む男たちの生き様は、歴史小説に興味のない人でも十二分に楽しめるはずだ。
以下に引用した虎麻呂(呰麻呂の腹心)の言葉も、現代に生きる人々にそのまま通じる心情ではないだろうか。
呰麻呂と運命をともにしたことで、幾度となく危ない橋を渡ってきた。戦においては命を落としかけたこともある。しかし、もとより人の命は一度きりだ。単なる柵戸として平穏ではあるが退屈な日々をすごすより、どれだけ心躍る愉快なときをすごしてこられたか。それを思うと、おのれの選択は間違っていなかったと、あらためて深い満足を覚えるばかりだった。そしてこれより先、さらに激しく流転する未来が、蝦夷国には待っている。望むところだ、と虎麻呂は思った。



