藤沢周平の初期の作品集「又蔵の火」を読みました。
「あとがき」で藤沢さんがおっしゃっているように、この本に収められている作品はどれも暗い……。読後も何か重いものをべろりと身にまとっている感じが取れません。
全体としてみれば、どの作品にも否定しきれない暗さがあって、一種の基調となって底を流れている。話の主人公たちは、いずれも暗い宿命のようなものに背中を押されて行き、あるいは死ぬ。(「あとがき」より引用)
藤沢作品といえば、市井の人びとの間に流れる人情やその暮らしぶりの描き方の見事さも魅力で、切なさやもの哀しさはつきものですがどこかに必ず「救い」が潜んでいるような気がします。その点で、救いがないほどに陰鬱な本作は異色といえるかもしれません。
甥・叔父として縁のある同族が相討つ果たし合いの凄惨なドラマを描きだした表題作「又蔵の火」ほか、久方ぶりに帰郷したやくざ者を迎える意外な人物とその周辺の人間模様についての「帰郷」など、どちらかと言えば世間の日陰者と言われる者たちの人生を描いた作品ばかりだ。
藤沢さんが描く「暗さ」は「哀しさ」とも重なります。命を取り合う立ちまわりの描写はスリリングで臨場感もありますが、身体の痛みよりも心の痛みが描き出されているあたりはさすがだと思いました。
暗い話ばかりですが、そのぶん重い感動を得られました。こうした作品ってほかにもあるのでしょうか? あればぜひ読んでみたいものです。
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