藤沢周平の「海鳴り」を読みました。文庫で上下2冊です。主人公の新兵衛と、人妻おこうとの恋物語で、いわゆる不倫ものです。ただし、そこいらの軽薄な不倫小説とは格がぜんぜん違います。
家庭がうまくいっていない男性が人妻との不倫に走る……。たとえその先にあるのが地獄だとわかっていても引き返せない……。人生が折り返し点を過ぎたと感じ始めた中年男性の悲哀と、修羅の道とわかっていながらも泥沼の不倫に堕ちていく様が、非常にリアルに描かれていて怖いくらいです。
一方で、新兵衛の商売についての記述は実に鮮やかで、商売敵との攻防は手に汗を握らされるリアルさです。新兵衛は今で言うベンチャー企業のやり手社長で、大企業の顔色を伺いながら着実に事業を拡大しようと画策しているのですが、新兵衛を潰そうとさまざまな横槍が入れられます。このあたりのせめぎ合いもスリル満点です。
設定はこのままで舞台だけ現代に置き換えても見事なドラマになりそうな物語で実に読み応えがありました。それというのも藤沢周平が、単に出来事や風俗をなぞり描くのではなく、そこに生きる人間そのものを丁寧に描いているからでしょう。
| 海鳴り〈上〉 | |
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| 海鳴り〈下〉 | |
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