歴史に「たら・れば」は禁物だが、歴史ファンはそれを考えることをやめられないものです。幕末から明治維新にかけて命を落とした人物で、「生きていたらどんな世の中になったか……」を考えるとき、常に上位にあるのは坂本龍馬、高杉晋作、吉田松陰といった面々です。しかし、この「峠」を読めば、そこに「河合継之助」という名前を加えたくなるはずです。
「峠」の主人公である河合継之助は、越後長岡藩に生まれた一介の武士です。親の跡目を相続せずに、30歳すぎまで書生として過ごしていました。この男が、やがては大抜擢を受けて筆頭家老までのぼりつめ、幕末の動乱のなかで長岡藩の運命の舵を取ることになるのです。
河合継之助は、ほとんど世間に知られていない人物です(記念館もあります)。おそらく、この「峠」によって知られたのではないでしょうか。Amazonのレビューにも「読むまで知らなかった……」という声が多く寄せられています。2005年の年末時代劇「大型時代劇 河合継之助~駆け抜けた蒼龍」(日本テレビ系列)で中村勘三郎が継之助を演じ、再び注目を集めているようです。
継之助は、最初から最後まで自分の「立場」を重んじ、そこから踏み外すことは断じて行いませんでした。
その心の根っこにあるのは「常在戦場」という考え方。
この河合継之助の生き様に、この本を読んだ多くの読者は自分を重ねずにはいられなくなります。それがこの「峠」のすごいパワーであり魅力でもあります。
海外との交易や、米・銅の相場などに目を配るほどの開明的な人物が、「たまたま」生まれた国(藩)のために自分を貫きとおす。この「たまたま」は継之助にとっては「運命」だったのだと思いますが、後世のぼくたちからみると、その偶然的な悲運を嘆く気持ちが抑えられなくなります。
開戦直前の場面で継之助と出会う西軍のトップが、岩村ではなければまた別の歴史があったかもしれません。この点は司馬さんも多少はその気持ちがあったらしく、たとえば山県有朋であれば政治的にもっと上手に戦争を回避したかもしれない、と述べられています。ちなみにこの岩村、同じ司馬遼太郎著の「翔ぶが如く」では完全に「小僧」扱いです……。
明治維新で政府高官となった人々の中には、明らかに河合継之助よりも人間が劣っていた人もいたはずで、それこそ参議などに継之助が列していれば……と考えるとワクワクしてくる反面でとても切なくなります。
かなりボリュームのある作品ですが、人生にインパクトを与える小説であることは間違いありません。未読の人には、強力にオススメしたいです。
余談ですが、小泉首相の演説で一世を風靡した「米百俵」の小林虎三郎は、河合継之助の後輩にあたる人物で、この「峠」にも登場します。
| 峠 (上巻) | |
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| 峠 (中巻) | |
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| 峠 (下巻) | |
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コメント (2)
初めまして。TBどうも有難うございました。
お礼に伺うのが遅くなってしまい申し訳ありません…。
河合継之助についての記事、納得しつつ拝見致しました。
彼の筋が一本通っている生き様は、今の時代から見ても憧れてしまいますね。
生まれる時代が少し違ったり、場所が少しだけ違っていれば…と、記事を読みながら私も思わず考えてしまいました。
能力的なもので言えば立派な傑人なのに、ちょっと環境が違っただけでこんなにも人生が違うなんて、何だか歯がゆいというか…色々思う所がありますね…。
私は司馬先生の「英雄児」という短編で河合を知ったのですが、記事を拝見して「峠」も是非読んでみたいと思いました。
またお邪魔させて頂きたいと思います。
それでは、失礼致します。
投稿者: なると | 2006年01月21日 18:16
日時: 2006年01月21日 18:16
なるとさん、こんにちは。
コメントありがとうございます。
河合の存在は、歴史にとって非常に難しいと思います。個人としては実に惜しむべき有能な人物ですが、長岡で暮らす人々にとっては、もっと凡庸な家老がいれば戦渦に巻き込まれることはなかったはずです……。
彼が長岡という小藩、しかも佐幕藩に生まれてしまったことは、河合を含むすべての人々にとって不運だったのかもしれませんね。
これからもよろしくお願いします。
投稿者: chief | 2006年01月22日 20:13
日時: 2006年01月22日 20:13