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日本人なら「翔ぶが如く」(司馬遼太郎)

これまでに何度読んだからわかりません。「『翔ぶが如く』を読みたいなぁ」という気分は突然に2~3年に一度は訪れます。全十巻の大著なので、一度読み始めたものなら、寝る間も惜しみ、通勤時間、食事時間などの自由時間を総動員して読みふけってしまいます。それほどまでにこの「翔ぶが如く」には魅力があるのです。80年代には大河ドラマにもなっています。たしか題字は司馬さんご自身によるものだったかと……。

この「翔ぶが如く」は、幕末維新をくぐり抜け、明治新政府を作り上げた2人の薩摩人、西郷隆盛と大久保利通を描いています(いまさら言うまでもありませんがね……)。薩摩藩では身分の低かった2人が、新政府の最高指導者に上り詰める様は、昨今のビジネスマンがもつベンチャー精神に通じるものもあるかもしれません。

2人で力を合わせて(それこそ人には決して言えないようなことにまで手を染めて)作り上げた新政府は、国内では旧幕藩体制からの変化に対する“抵抗勢力”に手を焼き、同時に海外では日本進出を虎視眈々と狙う諸外国とギリギリの折衝を行いながら、なんとかかんとか徐々に形を整えていきます。

類い希なる信頼関係と友情で結ばれた西郷と大久保の間に「政府」という大きな存在が挟まったことで、2人の人間関係は徐々にほころびを見せ始めるのです。

この「翔ぶが如く」は、小説というよりも司馬遼太郎氏の日本人感をまとめた評論的な意味合いも強く、そうした司馬氏の言葉も物語に厚みを持たせています。

日本史上でもっとも謎の多い人物だともされている西郷隆盛という英雄の人物像にもギリギリのところまで迫っています。よくある議論として、西郷は英傑か愚物か、といった話があります。司馬氏は西郷をそのいずれかであると結論づけることなく、西郷隆盛が直面した局面局面での思考や行いへの考察を積み重ねることで、ある面では英傑であり、またある面では愛すべき愚物であったのではと述べられているように感じました。

西郷隆盛その人の神秘性ともされる巨大な魅力については、西南の役(西南戦争)に参加した増田宗太郎の言葉が印象的でした。増田宗太郎とは中津隊の指導者で、現大分県にあたる旧中津藩から西南の役に参戦した不平氏族です(「中津隊」についてはWikipediaに解説があります)。

吾、此処に来り、始めて親しく西郷先生に接することを得たり。一日先生に接すれば一日の愛生ず。三日先生に接すれば三日の愛生ず。親愛日に加はり、去るべくもあらず。今は、善も悪も死生を共にせんのみ。(「翔ぶが如く〈10〉」より引用)

この言葉は、西郷隆盛率いる薩軍の敗色が濃くなり、軍の解散命令が出た際に発せられた言葉です。あとは討ち死にのみ、という段階に至り、薩摩の人間ではない中津軍の面々を死なせるのは忍びないと思った増田宗太郎は、中津隊の隊員たちに政府軍に降伏せよと命じます。ただ、自分はこのまま軍に残ると増田は言うのです。隊員たちは「隊長を残して自分たちだけがおめおめと降れるか」と激昂して増田に迫ります。そこで増田が語ったのが上の言葉とされています。「自分は西郷に接してしまったのだ……、だから降れない」ということです。

このエピソードだけでも西郷隆盛という人物が見えてきます。

この西郷を常に見つめてきた大久保利通という人も、世間からひどく誤解されている印象を持ちますが、この「翔ぶが如く」を読めば、その人となりを司馬遼太郎という日本でも希有のフィルターを通してうかがい知ることができます。西郷と大久保だけでなく、木戸孝允や伊藤博文、山県有朋、板垣退助、岩倉具視、三条実美など、明治維新の功臣とされる人ばかりではなく、それを支えた人々や対抗した人々が数多く登場し、「人間」という存在のおもしろさを堪能できます。

日本人なら読むべきでしょう!

翔ぶが如く〈1〉
翔ぶが如く〈1〉司馬 遼太郎

おすすめ平均
stars歴史の流れは良くわかります。
stars日本人の原型としての薩摩人の物語
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●全巻おすすめです!!

翔ぶが如く〈2〉 翔ぶが如く〈3〉 翔ぶが如く〈4〉
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stars征韓論の攻防
stars生死をかけることが難しく、その必要もない幸せな現代に生きている日本人として、ある種憧
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stars西郷の下野
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stars佐賀の乱、台湾出兵、時代は過熱していく
starsこの国のかたち その原型を探る

 

翔ぶが如く〈5〉 翔ぶが如く〈6〉 翔ぶが如く〈7〉
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stars迫真の「瀬戸際」外交
stars大久保利通の粘り腰と伊藤博文の寝技
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stars西郷、暗殺計画
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翔ぶが如く〈8〉 翔ぶが如く〈9〉 翔ぶが如く〈10〉
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stars翔ぶがごとく襲い、翔ぶがごとく退く
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starsサムライの絶滅、そして日本の精神の絶滅・・・

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「掘り出し物」これぞまさに105円コーナーの楽しみである。ご存知、司馬遼太郎最 [詳しくはこちら]

コメント (3)

継蔵:

 TRありがとさんでやんす。

 わたくし、仙台在住のものですが、鹿児島に一度行ったことがあり、読みながらまた行きたくなってきた!!!

 その時は熊本城や田原坂等、史跡めぐりできなかった(しなかった)ところ多々あるので、ぜひ見てみたい。

 少しだけ維新の人物について述べさせていただきますと、

 よく、西郷はすきだけど大久保は嫌い、という人いますが、ちょいとどうかな、といつも思います。

 確かに人物として西郷は魅力的でしょうが、明治維新という一大変革期にあっては、何が正義、誰が正しい、なんて価値基準は存在せず、みな「自分の正義のために」死力を尽くしたのだと思います。


 西郷には西郷の、大久保には大久保の、川路には川路の正義があった。

 誰がすき、と論じるのは大好きですが、誰が嫌い、と論じるのは嫌いな俺です。

 以上、しがない奥州人より。

継蔵さん、こんばんは。
コメントありがとうございます。
ぼくは鹿児島はおろか九州にも行ったことがないので、ぜひ行ってみたいと思いました。

おっしゃるように、この時代には新国家というものに対する各々の思いが結集、交錯、ときには火花を散らしながら「新しい国を作る」という大きな夢に向かっていますよね。ぼくはこの本を読んで江藤の正義について考えさせられました。

これからもよろしくお願いします!

トラックバックありがとう御座いました。

今となっては、この時代についての善悪論は、そもそも成り立たないですよね。

司馬遼も大久保に対する評価は、非常に大きいですよね。

でも鹿児島では、いまだに西郷に比べると、大久保に対する評価というか人気は、天と地ほどの開きがあるようですが。

当方、鹿児島通では決してありませんが、去年初めて訪れた鹿児島は、想像通りの本当に良い所でしたよ。
示現流の道場で、ゆすの棒で立ち木打ちもさせて頂きました。

これからもよろしくお願いします。

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2006年02月11日 13:22に投稿されたエントリーのページです。

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