羽生善治さんの「決断力」を読みました。厳しい勝負の世界で長期にわたってトップを張っている人だからこその言葉にあふれた素晴らしい本だと思いました。
空白の時間を作ることは、心や頭をリセットすることだ。ぼんやりすることは誰にでもできるだろう。仕事や人間関係などを頭からすべて捨て去り、生活の中に空白の時間をつくることは心身のリフレッシュにつながるはずだ。(97ページより引用)
ぼくは仕事中に雑談もするし、ぼけ~っとしていることもよくあります。まわりから見ると、もしかすると何もしていないように見えるかもしれません。だけど物事を考えるときは徹底的に考えています。ぼくにとって、無駄なことや何もしないことは、一気にアクセルを踏み込むための「アイドリング状態」なのかもしれません。ときどきガス抜きをして自分の中に「余白」を作り、そこに新鮮な空気を送り込む作業を繰り返しながら「新しいこと」を考えています。
終盤に有効な手は、やわらかい手だ。それを探す作業にもなる。やわらかい手とは、幅の広い、意味がたくさんある手だ。また、遅い手もいい手だ。急いで行くと、相手にその力を使われて反撃されてしまう。だから、慌てていかないほうがいい。局面によっては、めいっぱい遅い手がいいこともある。(112ページより引用)
「やわらかい」「遅い」と将棋の手を表現する感性が見事だと思いました。思えばぼくたちのまわりで起こっているビジネスでも、「やわらかい」「遅い」ことが大切な場面がたくさんありそうですね。この「やわらかい」「遅い」は自分にとってのキーワードになりそうです。
羽生さんが色紙に書かれるという「玲瓏」「八面玲瓏」や「明鏡止水」、「克己復礼」という言葉もいい言葉だと思います。同年代でそんな言葉を使う人を、ぼくは知らなかったので非常に新鮮でした。
若いころ、一人で考え、学んだ知識は、今の将棋では古くなり、何の役にも立たない。だが、自分の力で吸収した考える力とか道の局面に出会ったときの対処の方法とか、さまざまなことを学べたと思っている。私は、自ら努力せずに効率よくやろうとすると、身につくことが少ない気がしている。近道思考で、簡単に手に入れたものは、もしかしたらメッキかもしれない。メッキはすぐに剥げてしまうだろう。(156ページより引用)
これは最近ぼくもよく感じていたことです。ものごとを深く多面的に考える訓練をしてこなかった人が、クリエイティビティを求められる場面でぶちあたる高い壁がこれです。ひとたび指摘されると、そこからは得意の「近道思考」で考えられるので色々なことに気づくのですが、自分で考えて問題点や課題を克服するのが苦手なタイプの人です。このタイプの人が最近はすごく増えている気がします。
このことについて、羽生さんはさらにこう後述しています。
最近の子どもは、教えてもらわないとうまくならない傾向があるとよく聞く。たとえば、子どもに問題を出すと「まだ習っていない」からと、自分の頭で考えようとしない。
将棋の場合は特にそうだが、どの世界でも、教える行為に対して、教えられる側の依存度が高くなってしまうと問題である。将棋は。自分で考え、自分で指し手を決めていくものだ。誰かに教わってそれをそのまま真似たり、参考にしてやっていくことが習慣化してしまうと、局面を考える力は育たなくなってしまう。(177ページより引用)
まさにそのとおりだと思います。何かミスをしたときに「マニュアルがなかったから」と平然と言う人は、クリエイティブな仕事に従事する人間にも以外と多いものです。「やったことないから」を失敗の理由にする人も。
一方で、こうした人ほど「自分は新しいことをやらせてもらえない」と不満を口にしたりするものです。つまり「まわりが自分に新しいステージを用意してくれない」ことが問題だということでしょう。やっぱりどこかが違うと思います。
ほかにも参考になると思ったのは、羽生さんが子どもの頃に入門した将棋道場でのエピソードです。その道場では8級からのスタートなんですが、当時の羽生さんに席主が与えたクラスは15級だったそうです。つまり、実力よりも低いところからはじめさせることで、昇級していく楽しみを与えた方がいいという判断があったのです。これは仕事にも応用できそうですね。
薄い新書なので一気に読めばすぐに読み終わるはずなのですが、思いのほか時間がかかったのは、立ち止まって考える所が多かったからだと思います。それだけ含蓄のある中身の濃い本だと言えます。
少し前の本なので読まれた方も多いと思いますが、未読の方は超おすすめです。
こんど将棋中継を見てみようかなとも思いました。
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コメント (1)
TBありがとうございました。
谷川九段の「集中力」もオススメです。
投稿者: bibliophage | 2006年03月11日 17:49
日時: 2006年03月11日 17:49